2015年1月17日土曜日

シンプルライフ



シンプルライフ



アメリカ、ヨセミテ国立公園(Yosemite National Park)にそびえる世界最大級の花こう岩の一枚岩、エルキャピタン(El Capitan)の「ドーン・ウォール(Dawn Wall)」で14日、フリークライミングに挑戦していた米国人男性2人が登頂に成功。世界初の快挙だそうです。命綱以外の道具を使わずに登る挑戦を19日間かけてやり遂げました。


『社員をサーフィンに行かせよう』で独自の経営論を綴った登山・アウトドアウェアの製造販売を手掛けるアメリカのメーカー「パタゴニア」の創業者イヴォン・シュイナードはかねてからこう語っていました。「世界で一番素晴らしいクライマーとは、Tシャツにショーツ姿でエルキャピタン北壁を3時間で登るやつのことだ。雨具も水も食料も問題ではない。自然へのインパクトを最小限に抑えてただ登って降りてくる、それだけのことだ。」

それはイヴォンが実践してきたスタイルであり、そこにはまず自然があり、人間はそこに入り込ませてもらうという思想。今回の快挙はイヴォンの思想そのままでした。

またヘンリー・デビッド・ソローが19世紀に実践を通して書いた名著『ウォールデン、森の生活』の冒頭では、当時の人々の複雑な生活をこう批判しています。
私たちは細かいことで人生を無駄にしている。誠実な人なら、数を数えるのに10本以上の指は必要無い。どうしても必要な場合は、足の指10本を加えて、それ以上は一緒くたにしてしまえばいい。シンプルに、シンプルに、シンプルに考えよう!やらなければならないことも、2つか3つで充分。100個もあるのはおかしい。

彼らが共通して訴えているのは、LESS IS MORE(より少ないことは、より豊か)つまりシンプルに生きようということでした。

ソローが湖の畔で警鐘を鳴らしたのは19世紀でしたが、21世紀のいま、人々の暮らしはさらに複雑になりストレスが人間を蝕んでいます。
進化するためにストレスは必要です。負荷がないと進化しないからです。ストレスには幸せに必要な良いストレスと人間を痛めつける悪いストレスがあります。良いストレスを体験するには、本当に大切なことを行うために、暮らしはシンプルでなければなりません。

ソローが実行した暮らしをする知恵も気力もほとんどの現代人にはありません。余計なことをやり過ぎて能力も情熱も低下してしまったのです。本当に自分の人生を生きるために、失ったものを取り戻すためにシンプルライフ、シンプルリストを実行しましょう。その方法を説明しましょう。



シンプルライフ、シンプルリスト

シンプルライフとは夢中で生きる方法、自分とのコミュニケーションの在り方です。
シンプルライフとは、無印にすることではなく、自分のしるし、自分の色をつけること。つまり余計なこと、ものがあるとシンプルライフにできません、
自分の暮らしをシンプルにする方法は実にシンプルです。
それは本当に重要な、いつも夢中になってやれることだけをすればいいのです。
誰しもそれは理想、そうはいかないのが暮らしだと考えます。確かにそうです。だからこそシンプルにする必要があるのです。

たとえば役所の手続きひとつとっても分かりづらく複雑で窓口では待たされます。窓口では口論する光景をよく見かけますが、役所としても市民の安全を守るためにルールを曲げるわけにはいかないので、市民は時間と努力を強要されます。

だからしなくていいことはどんどん減らすようにするのです。そうしないとますます混乱していきストレスまみれになるからです。

ストレスは必要なものです。人間は負荷をかけないと進化しないからです。しかし必要な負荷と不必要な負荷があります。
進化するためには、不必要なストレス(負荷)を省く必要があります。

一度、正直に全部書き出してみましょう。まず準備作業です。
「これは自分の人生に価値を与えてくれるものなのか?」
「自分にとっていったいどれほど重要なものなのか?」
「自分の人生の価値観や優先事項と一致しているだろうか?」
「これをやめたら人生はどう変わるだろう?」
「人生の目標や夢へ一歩でも近づけてくれるものだろうか?」

検討が終わったら、「シンプルリスト」を作りましょう。

シンプルリストとは、夢中で生きるためのリストです。ですから自分にとって本当に重要な、いつも夢中になってやれることだけを書き出したリストです。

従来使っていたリストに挙げた約束ごとのなかに重要でないものが混じっているはずです。自分の本当の人生に必要ではないものは削っていきましょう。
この削って圧縮する作業はストレス、注意散漫を撲滅して、生きがいのある人生を過ごす、自分の力を発揮するうえで欠かせない作業です。
参考までに、自分のショート・リストです。

1.幸せにしたい人と過ごす
2.食べる
3.身体を動かす
4.読む
5.書く

自分が熱く没頭できることをするための時聞を作るには、没頭できることよりも優先順位の低いものを減らすのがコツです。そうすれば、シンプルリストに専念して、自分の人生のある場所で暮すことができます。
一般に多数の人が活用するマニュアルはシンプルにするほど使いものにならなくなりますが、やることリストは自分のことなので自律心さえ働かせていたら問題ありません。

では、次にシンプルリストの作り方です。


シンプルライフに誘導するシンプルリスト

【第1ステップ ゆっくりコンパクトにスタートする】

一度に何もかも減らしてしまうのは放棄であって、シンプルリストの主旨と違います。シンプルリストは、これまでの暮し方を全否定するものではないのです。まずは減らすことができそうなものを見つけて、そこから手をつけていくようにします。自分が熱く没頭できること、それ以下のことに分類します。

自分が熱く没頭できることがよくわからない場合には、次の点に留意して分類してください。
自分自身がかけた時間や努力に対するリターンが一番少ないものはなにか
自分自身の人生の在る場所、価値観、ゴールからもっとも遠いものはなにか
たとえば人間関係もそうですね。失恋の痛手、失った人間関係にいつまでもこだわっているのもそうです。

減らしたら、少なくとも2、3週間はそのままにしておいて、問題が生じないか様子を見て確認します。


【第2ステップ 繰り返す】

シンプル・リスト以外のものは、できるだけプライベートな人生からそぎ落とします。シンプルリストに掲げた最後のリストまで、「一度にひとつずつ」を遵守してこの工程を落ち着いてゆっくりと本質に迫ることだけになるまで繰り返します。

【第3ステップ シンプル・リストに取り組む】

空いた時間は、シンプル・リストに該当することを実行します。
たとえば「幸せにしたい人との時間を持とう」と決めたときは、その時聞を何よりも優先させ、あてがいます。

私たちの悪い癖は、幸せにしたい人との時間を持ちたいから、もっとガンバって働こうと考えてしまうことです。それはとっても重要なことですが、そうするうちに、どんどん自分が夢中になれることから遠のいてしまう危険があります。

子どもは勉強より遊ぶことが好きですが、親が先に勉強しろと釘を刺します。こうして無邪気な子ども心が少しずつ失われ、従順な子ども心が増して自分を失います。

成功した人たちの共通点に、比較的若いうちにやりたいことを見つけていることです。つまり、やりたいことへの投入時間が圧倒的に多いのです。文武両道と言う言葉があるように、やりたいことを通して人生を学んでいき一流になっていきます。

そこには自分への信頼があります。夢中で向かっている子どもを応援する親の優れた視線を感じます。

私たちには、人によってバランスの違いこそあれ、何歳になっても親のこころ、大人のこころ、子どものこころを持っています。親のこころには厳格な親のこころ、保護的な親のこころ、子どものこころには、従順な子どものこころ、無邪気な子どものこころがあります。

これら5つのこころの内、もっとも本来の自分のこころが無邪気な子どものこころです。愛し合う男女のじゃれ合うコミュニケーションは、双方とも無邪気な子どものこころが全開になったときです。夢中になって没頭して過ごしているときに全開になっているのも無邪気な子どものこころです。
シンプルリストは理屈ではなく、直感を活用した没頭できる暮らしに誘導するものです。

「パタゴニア」の創業者イヴォン・シュイナードが語っていた「世界で一番素晴らしいクライマーとは、Tシャツにショーツ姿でエルキャピタン北壁を3時間で登るやつのことだ。」に通じる在り方に通じる扉なのです。



シンプルライフと他者との関係


シンプルリストを実行する段階で気になるのが人間関係です。
シンプルリストは自分とのコミュニケーションを最良の状態にして自分の人生のある場所で暮らす、つまりシンプルライフを実行するためのツールです。
自分とのコミュニケーションは最良になったけれど、他者とのコミュニケーションは最悪になったというのでシンプルライフもシンプルリストも失敗です。
リストの登録してあることを減らすごとに他者への罪悪感を覚えるようなら、立ち止まって自分と自分の暮し方を見直してみましょう。

人と人の間には「境界」があります。国と国の間に「国境」があるようにです。つまり自主独立。自立していることが原則なのです。しかし人はいつもそんなに強いわけでもなく、悩み、迷いながら暮しています。だからこそ人と人の絆の強い関係が生まれもします。

その関係を悪くすることに痛みを感じるのは当然ですが、境界を意識して自分にとって大切なものを選ぶのが大切です。関わり合いは勝手に増えません。すべて自分が引き受けて関わって来た結果のいまですが、人の求めに自分の時間を捧げるるようなことをしていたら、自分の人生を生きることはできなくなります。

他者とのコミュニケーションが最悪になって失敗したということにしないために感謝の気持ちを忘れず応じられないこと、変更の余地のないことをきちんと誠実に伝えます。リストづくりの最中に新しい関係を増やしていくといつまでも減らないので気をつけましょう。


シンプルリスト、そしてBeとDo

シンプルリストの大分類ができると、項目ごとに該当することをリストアップしていきますが、最終的に重要になるのがなにをするか(Do)より、どうありたいのか(Be)です。

私たちが自信を失う大きな原因になっている「なにができたか」「なにをしたか」という見方、つまり「成果」へのこだわりは、自分の外側の力で実は地域、期間限定、しかも自分外に評価を委ねるものです。たとえば勤めていた会社をヤメると「ただの人」になってしまいます。そこで退職前の役職や企業名を出すことで自分を評価してもらおうとしても過去のことです。これは地域、期間限定の最たるもので、地位、役職、所得、資格、学歴などが該当します。

このような評価の仕方を重視しすぎていると、自分の気持ちや考えが曖昧になってきます。他者の目が気になって他者の考えを取り込んで自分の行動を決めてしまうからです。こんなことをしていると、夢中になって打ち込むことができなくなってしまう危険があります。「自分探し」なんて馬鹿げた言葉と行為がうまれる原因にもなっています。

一方「どうありたいのか」は、他者に評価に委ねません。自分の内側で自分が納得できるか、できないかの問題です。以下のものが在り方の事例で、このようなスタイルを身につけることで、必要なライフスキルが磨かれます。これらは世界中どこにいっても通用します。

・ 自分と周囲の人を尊重し励ます
・ プロセスに注目する 
・ 決めたことは責任をとる
・ できるまでやる
・ いまこの瞬間に集中する
・ 理想と現実の差をうめる目標を選ぶ
・ 感情的な行動をしない

シンプルリストにリストアップしたことをどのような在り方で実行するかも書き加えておくといいでしょう。これこそ自分を作る上でもっとも重要なレシピなのです。もちろんすぐにできないでしょう。特にDoにこだわって自信を失くした人は、Beも育っていません。

でも、大丈夫です。することを少なくして、本当に夢中になれそうなことをリストアップして、どのようなスタイル(Be)で取り組むかを意識して繰り返せば、少しずつ自分への信頼感が育ってきます。育てば育つほどシンプルライフも板についてくるでしょう。