2011年7月18日月曜日

人生を楽しむ

人と人が出会うことの最大の価値は「創造」することにある。出会う数が多いほど、「創造」の数が増えることは楽しい。たとえばこの人のために働きたいと思わせるには、この人の内側に結果を出すというポジティブな信念がなければならない。

自分の人生に出した結果にワクワクすることはあっても、自分が人生に努力したという話に興奮するものはいないからだ。しかも結果を出すためのインスピレーションや勇気が他者への思いやりの上に立脚したものでないと、機能することはまずない。リーダーシップとは、人々を自分の夢に共感させる力だ。裏を返せば人々の夢を叶える力ということに他ならず、裏を返せば人々の夢を叶える力ということに他ならず、共感、共有なしに語れない。

たとえば、楽しいという店とそうでない店がある。つまり共感できる店とできない店があるというわけdだ。世界最大の家具小売業「イケア」について書かれた書籍IKEA 超巨大小売業成功の秘訣(リュディガー・ユンクブルート:著/日本経済新聞出版:刊)の一部を紹介しよう。


 実際にはイケアの来店客の大半は、もっとサービスをしてもらっているはずである。ところでイケアは、広く大衆に家具を提供する店だと自分でアピールしているが、だからといってけっして下流階層のための家具店ではない。それどころか店内を見回すと、お客の大半は中間層との印象を受ける。
そもそもマイカーがなければ家具の部品を家に運ぶことができないのだから、そのことからしでもイケアはお金のない人たちの店ではない。
イケアのお客の多くは、店に対して愛憎半ばする思いを抱いている。彼らにとってイケアは、「人生楽して得られるものは何もない」ということを教えてくれる国民学校のようなところだ。料理界の大御所ヴオルフラム・ジーベツクは、あるときイケアで小さな仕事机を買って組み立てたことがあった。
その結果どうなったかを、彼は〈ツアイト〉紙に寄せたエッセイで次のように述べている。「そのためにわたしは二日と一晩を費やし、その結果2キロ体重を減らし、妻には愛想をつかされ、子供たちの尊敬を失った」イケアのお客にアンケート調査したところ、女性よりも男性のほうが家具に不満を持っていることがわかった。それは戸棚やシステムキッチンを組み立てるのはたいてい男性のほうで、加工品の不備に気づくことがよくあるからだ。しかし最大の理由は何といっても、思ったよりも組み立てに悪戦苦闘するからである。



(一部省略)

イケアのお客は組立作業の経験がほとんどない。そのためチェストの組み立て一つに何時間もかかってしまう。それに加えてイケアの家具は、一人では組み立てられないようにできているのだ。だから誰の助けも借りずに一人でやると、かならずどこか傷めてしまうのである。
家具の組み立てに一番大事な道具は、INBUSと呼ばれる六角レンチである。これはたいていの家具に添えられていて、イケアのシンボルの一つでもある。INBUSというのは略号で、INは六角形のレンチのこと、BUSは「Bauer und Schaurte」という会社名の略号で、この会社は1936年にレンチ・スパナ類をはじめて市場で販売した。
イケアのお客が手伝わなければならないのは、家具を買うときだけではない。レストランもショッピングと同様セルフサービスになっている。聞によって表示の仕方はまちまちだが、食べた後の食器類は洗い場に出すよう指示標識が出ている。こうしないと低価格が維持できない。

その一方でイケアはお客に対してきめ細かなサービスもおこなっている。たとえばおむつ交換台におむつを備え付けておくのは、イケアにとっては鉛筆と巻尺を用意するのと同じくらい当たり前のことである。しかもおむつは女性用トイレだけでなく、男性用トイレにも備え付けてある。
このように何かと注文の多い店ではあるが、来店客の大半はイケアのサービスにおおむね満足しているようだ。そうでなかったらこれほどの成功は考えられない。もちろんイケアの魅力が(少なくともドイツの一般大衆からすれば)その安い価格にあることはたしかである。しかしそれだけではない、多くの客はイケアのショッピングの仕方に心地よさを感じている。

イケアではお客はほっぽらかしにされ、お客のほうもそれが気に入っている。販売員がしつこく付きまとうこともないし、あれこれ奨めることもしない。だが評論家のハラルド・イェーナーは〈ベルリナー・ツアイトゥング〉紙の中で、このような客と店のあり方をいみじくも次のように分析している。「たしかに専門的なアドバイザーがいないことで、付加価値は減って品物は安くなる。またこのような買い方は、自分とわが家の聞に権威が介入するのを許さない現代人の気質には合っているのかもしれない。しかしそれによって、その道のプロとの出会いを失っていることも確かである」

自分と家具だけの世界

とくに若い人たちにとっては、店員がじろじろ監視して、客の懐具合を品定めするようなことがないのは気楽でいい。どうやって組み立てるのか、いくらぐらいするのかを夫婦や親子の聞でやりとりしているときに、あれこれ口を挟まれたのではたまらない。イケアでは好きなだけゆっくり商品を眺め、あれこれ試して比べてみることができる。お客はプレッシャーを感じることがない。そのかわりに専門家のアドバイスはうけられないが、むろん望むところである。店内を動き回っていると、まるで気の合う仲間たちと一緒にいるような気がしてくる。実際イケアの店は待ち合わせの場所に適しているように思え、雰囲気もアットホームだ。店内の勝手もわかり、なじみのものばかりである。従業員たちものんびりした印象を与える。従業員たちの家族的な雰囲気が、お客にも伝染する。来店客はイケアのことを、行くたびに新しいレパートリーでもてなしてくれる料理上手な親戚のおばさんのように思っている。

哲学者のロベルト・ユンクとイヴアン・イリイチは70年代、「これ以上サービス社会を広げてはならない」という要求を突きつけたが、お客に家具を運ばせ作らせているイケアは奇しくもこの要求をかなえている。「新しいサービスが次々と生まれることで、人間本来の活動能力がだめになってしまう」とこの二人の哲学者は嘆いた。「専門家の集団が、本来自分でやるべき仕事を人聞から奪ってしまっている。だからちょっとしたことでいちいち専門家の助けを借りるのではなく、身のまわりのことは自分でやるべきである。さもないと人間は生きる知恵をなくして他者に寄りかかるだけになってしまう」
と彼らはサービス過剰社会の危機を警告した。またデザイン研究家のヴイクタl・パパネックも、「お客に家具を組み立てさせるのは、利用者と生産者の講を埋めるのに役立つ」と、イケアの方針を評価した。

「だから自分の手を使うことに感動するのです」イケアでものを買って組み立てると、人の役に立ったという心地よい気持ちを味わうことができる。家具を棚から取りおろして、自分の車で家に持ち帰り、部品を組み合わせて家具を作り上げる。多くのお客はこれによろこびを感じる。それは子供が飛行機のプラモデルを作ってよろこぶのと同じである。それは遊びごとに夢中になっているときに味わううきうきした気持ちだ。あるフランスの女学生がうまいことをいった。「イケアつてなんだか大人のレゴみたいね」
ブランド商品研究家のエレン・ルイスは、「イケアが他を凌ぐ強力なブランドにのし上がれたのは、お客を参加させることに成功したからだ」という。

IKEA 超巨大小売業成功の秘訣(リュディガー・ユンクブルート:著/日本経済新聞出版:刊)

人生も仕事もゲームのように楽しむ

どうだろう?ここにはいまを生きる私たちが自分の人生に望んでいるすべてが収録されていないだろうか?
お客を参加させることに成功したと語るのは簡単だが、その道のりが簡単でなかったことは誰でも気がつくことだ。結果を出すために他社とはっきり差をつけることを至上命令にしたトップ(イングヴァル・カンプラード)の思いがお客の参加という形になった。つまり自分の人生が他者にインスピレーションや勇気を与えた結果が、お客の参加という結果を創造したのだ。自分の人生ストーリーが傑作であればあるほどその価値は大きく収入は増えるという事例だ。

女学生の「イケアつてなんだか大人のレゴみたいね」という言葉は、私たちが人生をどう過ごすべきかについてこれ以上ない明確な回答のようだ。

私たちはまだ十分に自身の人生に参加していないことに気づく人も少なくない。

 人生も仕事もゲームのように楽しいものだ。他人の真似をして人生や仕事をつらいものだと思う理由はない。